「とても日本的」、「和の良さがある」。もう30年以上になる建築家人生、設計に携わった住宅はそう称されることが多かった。柳瀬さん自身は特に意識したことのなかったキーワードだそうだが、「最近は『それが自分らしさなのかも』と思えるようにもなりました」と静かに微笑む。

「そんなときにお話を頂いたのが今回のプロジェクトでした。だったら、“らしさ”を強く打ち出したプランをと思いましてね。規格住宅でよく見かける普通の2階建てではなく、日本的な暮らしの原点である平屋建てでいきたいとお願いしたのです」。

マキハウスでも初の試み、平屋建てのプランにはcasa bassoという名がつけられた。bassoはイタリア語で『低い』を意味する。そう、日本人は家の中では靴を脱ぎ、床に座り、庭と同じ低い目線で自然との一体感を感じながら暮らしてきたのだ。「こうした日本人の感性を育てた建築の意匠をそのまま取り入れるのではなく、モダンに生かすには?」。イメージを絞り込んでいく作業が始まった。

設計を始めるにあたり、柳瀬さんは3つのコンセプトを立てた。そのうち2本は「住み継がれる家」と「人や町並みに対して自然体な家」。「現在、住宅を購入するときのローンはだいたい35年で組むものとされています。この間に、子どもが成長したり、巣立ったりと、家族構成や生活スタイルや考え方は大きく変わるでしょう。私が届けたいのは、それでもなお愛着を持って住み続けられる住まい。時間を経てさらに味わいを増すよう、デザインはごくごくシンプルに、自然体だからこその美しさ、心地よさを心がけています」。

そして3本目のコンセプトが「商品として分かりやすい家」であること。「生活をする床と、生活を覆い護る屋根。この2つの要素が持つプリミティブな形を活かし、誰がいつの時代に見ても『家だ』と理解できるフォルムを心がけました。

明快なスパン構成(柱の割付け)から成り立っているので、美しい上に災害にも強い。シンプルな構造に徹することも、良質な規格住宅をローコストでご提供できる理由です」。

casa bassoの建築的な特徴はシャープでモダンな切り妻屋根。南側の屋根には1m20cmという深い軒(のき)が設えられ、軒下も有効利用されている。「軒は家を守る傘なんです。この傘を差すか否かで、外壁などの痛み方はかなり異なります。

ちょうど30年前、両親のために建てた家にも、私は深い軒をつけました。おかげで今も建てた当時と変わらない状態。家が軒に守られていることを実感します」。室内の暮らしもまた軒によって守られている。夏の日差しを遮り、冬の柔らかい日差しは取り入れる軒は、優れた環境調節装置でもあるからだ。「湿気が高く雨の多い日本では、軒下の使い方も多様ですよね。

雨続きでも傘をささなくてすむ軒下は、子どもたちの良い遊び場になりますし、窓を開けて雨降りの景色を眺める余裕もできるでしょう」。家や暮らしをただ守るだけじゃない。例えば雨が楽しみになるほどに、心にゆとりをもたらしてくれるのもまた軒の力なのだ。

部屋の一部を収納にしたり、趣味を楽しむアトリエにしたり、またはSOHOのようなオフィス空間に設えたり。casa bassoは水まわり以外の間取りは住人が自由にプランニングでき、オプションも豊富だ。「これぞ現代の民家。大きな屋根の下、広い空間はその時々の生活に合わせて仕切りながら使うことが出来ます。床面積は約28坪とコンパクトですが、平屋なので階段は必要ありませんし、今回はあえて廊下もまったく設けないプランとしています。これによってLDKも主寝室も贅沢なほどに広く確保できました」。

縁側を挟んだLDKと庭の間に生まれる水平の広がりも、casa bassoならではの魅力。夏は窓辺から離れて本を読もうか。秋は縁側で色づく木の葉を眺めてお茶でもしよう。春は庭で食事もいいだろう。…と、季節ごとにどこでどう過ごすか、住まう人が発見できる。「そんなポテンシャルを秘めた家がいい」と柳瀬さんは笑みを湛えて話し、柔らかな声でこう締めくくる。

「刻々と移り変わる光や風といった自然を取り入れ、内外の空間がさまざまな形でつながっていられるように。使い方を限定せず、時や自然と共にある住まいでありたいと考えました。自然と対峙し、固定されたもの、変わり行くもの、移ろうもの、それぞれの狭間を設えるのが私たちの仕事。穏やかな佇まいと秩序を保った簡素な空間が、豊かなくらしの良い背景になればと思っています」。

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